戦争中に大半を損傷してしまった松方コレクションのクロード・モネの睡蓮の絵を、AI技術を駆使しながら再現させるという国立西洋美術館の一大プロジェクトの全貌がNHKスペシャルで放送されました。AI(Artificial Intelligence:人工知能)と芸術の融合ということで楽しみにしていた番組です。
川崎造船を設立した松方幸次郎はモネに直接交渉して睡蓮の絵を購入した
モネは晩年、家族(奥さんと子ども)を先に亡くしてしまったことや、自身が白内障にかかっていたことから暗い色(主に深い青)を基調とした「睡蓮」シリーズの作品を沢山残しています。
晩年は、モネが心許した人にしか絵を売らなかったらしいのですが、松方幸次郎とは一緒に映っている写真もあるほど打ち解けていたようです。松方は世界大戦が始まる前に、モネから「睡蓮・柳の反映」の絵を購入しました。
貴重な松方コレクションの一部となるはずだったこの絵は、戦争中にパリから避難し郊外の松方の部下の自宅へ。しかし、湿気のため絵の半分ほどは失われ、残された部分もカビだらけになってしまいました。
その後オーランジュリー美術館の収蔵庫の奥を転々としていたといいます。その絵が2016年に発見され、100年ぶりに日本に戻ってきました。この絵を1年かけて蘇らせようというのが、今回の国立西洋美術館のプロジェクトです。
東京の国立西洋美術館の一大企画がスタート。最初はカビだらけで絵の様子は全くわからなかった
絵の約半分が失われている上に、残っている部分もカビに覆われた状態(絵としては見られない状態)からのスタートです。
まずは、カビやホコリを表面から取り除き、残った絵の具部分を、サメの軟骨から作った接着剤で貼り付けていきます。「ふっ」と息をつくこともできなさそうなぐらい細かい作業に見えました。
モネの筆使いが失われないよう、汚れ取りにはピンセットや綿棒を使っていて、とても丁寧な作業でした。
汚れを取り除いてモネの絵が現れた時点でも、絵の半分は失われていたため全貌の想像はつかなかったのですが、フランスに残っていた昔の白黒写真の中に、この絵を写したものが存在することが判明します。担当の方がこの「睡蓮・柳の反映」の絵の白黒写真を撮影しにフランスへと飛びます。
さらに、他の美術館にも残されている沢山のモネの「睡蓮」シリーズの絵を撮影して、モネの色使い・筆使いのデータをためていきました。(日本では、大山崎美術館や直島の美術館にある「睡蓮」の絵が有名です。)
AIで300万回機械学習させてモネがどのような色使いをしていたかを探る
次に、筑波大学のAI担当の方が、AIにモネの色使いを機械学習で学ばせていき、白黒写真から、絵が描かれた当時の色であろう色を導き出します。
最初は、西洋美術館の館長始め周りの専門家も納得できないような色(黄色っぽい色)が再現されていたのですが、何百万回もAIでの学習を繰り返すうちに、遂に「実際はこんな絵でこんな色(暗い青基調)だったのではないか」という晩年のモネの睡蓮の絵が導き出されます。
AI(Artificial Intelligence:人工知能)と芸術の融合が遂に始まった!
AIと言えば、「学習ができる人工知能」ということで、ビジネス面での活躍を期待することが大きいように思いますが、今回のように、芸術作品の再現にも使えるということは新しい視点だと思いました。
AI以外にも、絵の具の成分を分析する化学チーム、顕微鏡で絵の具の重なりを分析するなど、プログラミングだけではなく化学の面からのアプローチもありました。
最後は人の手でモネの筆使いを再現する
AIや化学の力を借りた後は、画家がモネの筆使いや色のかすれ具合を何度も実際に絵の具で絵を書きながら学んでいました。最後に、残っていた部分のモネの絵と人が描いたモネの絵を合わせて完成となりました。
私もモネの絵のファンであることと、今回はAI技術と人の手の技術が融合した「今でしか再現できない作品」であることから、是非実物を観たいと思っています。
(昨年、国立西洋美術館の松方コレクション常設展を見に行ったのですが、時間がなく印象派のコーナーをサッと回ることができませんでしたので、次回チャンスがあれば是非行きたいです。)